建築・住宅誌 編集長インタビュー
第9回
「I'mhome」編集長 角田絵里沙さん
I'm home.・・・「ただいま」と帰りたくなる
楽しくハイエンドなライフスタイルを提案

「I'm home.」のコンセプトと読者ターゲットを教えてください。
「ハイエンド」を大きな切り口としています。ハイエンドというと「高級」というイメージがあるかもしれませんが、ローコストだから、敷地が狭いからハイエンドではないというわけではありません。物理的な意味ではなく、心地良さや美しさにおける自分の価値観を持ち、それを住まいや暮らしに反映させようというのが「I'm home.」のコンセプトです。
何を美しいと感じるか、どのようなものやどのようなデザインが好きか、そして何にこだわるのか。好き嫌いには必ず理由があり、それを深く考察することで自分の価値観をつくりあげ、理想の暮らしを実現する、それがハイエンドを目指すということです。ですから、「I'm home.」ではそれらを具体的にビジュアルで表現しながら、住まいを中心とした気持ちの良い豊かなライフスタイルを提案しています。暮らしの中には空間や家具はもちろん、設え、料理、ファッションと多くの要素があるので、住まいを紹介するだけでなく、アートや音楽、料理を特集するなどさまざまな形で紹介しています。
私たちの対象はあくまでも“house”ではなく“home”。“住宅”ではなく“住まい”であり、“ライフスタイル”です。「I'm home.」は口語で「ただいま」という意味。ただいま、と帰りたくなるような楽しい住まい、ライフスタイルを提案したいという思いからこのタイトルが生まれました。
読者ターゲットも、皆と同じスタイルを好む人、トレンドに合わせる人ではなく、自分の望む理想の暮らしやものづくりに対してこだわりを持ち、嗜好がはっきりとしている人たちです。年齢層で言えば、当初は30~40代を想定していましたが、実際は20~50代まで幅広く読んでいただいているようです。また「I'm home.」では、さまざまな分野に対して美意識が高い人をターゲットと考えているので、建築的な企画も特集しています。もちろん、読者には建築、インテリア関係の仕事をされている方もいらっしゃいますので、「I'm home.」を見て、住み手がどのようなことに興味があるのかを知っていただきたいと思います。

「I'm home.」は角田さんが創刊された雑誌ですよね。創刊の経緯をお聞かせください。
一般誌はものに寄りすぎていて空間がどのように構成されているかが分からず、また、家具のない竣工写真を掲載する建築誌は、誰がどのような暮らしをしているのか、またどのような住まいを望みこのようなかたちになったのかという住み手の意図がまったく伝わってきませんでした。空間から設え、ライフスタイルに至るまでを知ることができる雑誌をつくろうと思ったのがきっかけです。
「I'm home.」の創刊前は「商店建築」の編集に携わっていましたが、日本では“建築”“インテリア”“コーディネート”がなぜ分業されてしまうのかが疑問でした。実際、住まいには空間からものまで、日々の生活に欠かせない多くの要素が一緒にある。それを一つの線でつなぐ雑誌として「I'm home.」をつくったので、建具などのディテールから、構造、インテリアコーディネートに至るまで特集の内容が多岐に渡るのです。暮らしをトータルに提案することで、自分の望む暮らしを実現したい人たちの参考になればと思っています。
また、「商店建築」に携わっていた頃は、住宅以外の建物を取材していたので、商業空間のデザインを得意とするインテリアデザイナーと話をする機会が多くありました。たとえば、彼らは隣接する場所に同業態で異なるオーナーの店をデザインしなければならないこともある。当然、同じデザインはできないのでアイデア勝負になります。そんなアイデアのポケットをたくさん持っている彼らがデザインした住まいはとても興味深いはず。ブティックで使っている仕掛けを住まいでも生かせるのにと思うこともありました。ある意味では、建築とインテリア、ショップや住宅といった境界はあまり関係ないと思います。互いの役割が明確に分けられた業界の中で、「I'm home.」が相互にフィードバックできることがあるのではないかと考えています。
書店に並んでいると、初めは、洋書? それとも何の雑誌?と思いました。
海外への流通を視野に入れて出版していたら、また違った体裁にしたと思いますが、実際のマーケットは日本、そしてコンセプトはハイエンドな価値観。スタイリッシュに豊かなライフスタイルを実現したいと望む人が手にとり、マガジンラックの最前列に置きたくなるようなデザインの雑誌を目指しました。
どういった家を誌面に取り上げていますか?
オーナーと設計者の双方の価値観がはっきりしていて、暮らしに対するイメージが明確に表れている住まいです。設計者を経由して取材を依頼するのですが、実際にオーナーにお会いすると近いところに位置する方が多いように思います。

建築家との家づくりを成功させるコツはありますか?
「縁」が最も大切だと思います。それは、自分に合う人と出会う能力、引き当てる能力とも言えます。そのためには、良いものを数多く見て、実際に手に触れることが大切です。それはホテルでもいいし、ショップでもいい。さまざまな場所を訪れて、自分は何が好きなのかを考えてみてください。洋服や食べものに好みがあるように、住まいについての自分の好みを知ることで、理想の暮らしを思い描けるようになるはずです。どのような暮らしがしたいか、何を実現したいか、それを明確にイメージできなければ良い住まいは実現できません。しかし、自分で思い描くことには限りがあるため、設計者というプロフェッショナルが必要になる。彼らはい良い意味で、別の視点から住まいづくりを提案してくれる存在です。
設計を依頼する際、雑誌やインターネットから探すケースが多いようです。互いに選び選ばれるということは、ギブアンドテイクの関係であり、設計者とオーナーとの価値観があっていなければ仕事は成立しません。深くコミュニケーションすることで、互いの価値観を理解していく必要があります。
「I'm home.」で取材する住まいのオーナーは専門的職業の方が多いようです。オーナーも違う分野のプロフェッショナルなので、家づくりに関して優先順位を決め、あとは設計のプロに任せる。そこは信頼関係で成り立っていると思います。
たとえば設計者が提案したプランに対して意見を交換し、互いに理解し合える関係でなければ心地良い住まいはできません。家づくりは竣工して終わりなのではなく、そこからも長いお付き合いが始まるのです。
家づくりは完成した後も楽しいということですね。
家は製品ではありません。家づくりは時間をかけて成長していく過程が楽しいもの。家づくりは限られたコストと時間のなかで進めて行くからこそ、パーフェクトではなくても自分の理想をどのように実現するか、何を優先するかを潔く選択できなければ、家も暮らしも中途半端になってしまいます。

個人的にはどのような住まいが好きですか?
よく私は家を車にたとえます。日本の高級車は音が静かですが、外車は必ずしもそうではありません。アイドリング時の電動ファンの回る音や、走っているときの速さを感じるエンジン音も好きです。そしてドアを開け閉めするときの重厚感のある音はかなり重要。でも、反対に室内の機能は最低限でいい。ドリンクホルダーぐらいはつけて欲しいと思うこともありますが。車に求めるものは人それぞれですし、それは家もまったく同じだと思います。私は一台の車を10年近く乗っていますが、時間の経過や自分とともに歩むうちに愛着がわいてくる。故障して手間がかかることもありますが、メンテナンスしながら乗ればいい。
それは住まいも家具も同様で、スクラップアンドビルドを繰り返す時代は終わり、地球環境を考えても世代を越えて住み続けられる住まいをつくっていくべきだと思います。それには経年変化に耐えうる上質な住まいでなければなりませんが。日本の住まいの平均寿命が30年は短すぎると思いませんか? また、気に入ったソファだからこそ張り替えて大切に使って欲しい。たとえ、張り替えるのと買い換えるのが同じだとしても…。
「I'm home.」として今後、力を入れていきたいところ、伝えていきたいことを教えてください。
ハイエンドな住まいとライフスタイルという切り口からさまざまな提案を行っていますが、それをきっかけに自分の価値観を築いて欲しいと思います。日本の住宅は全体的に画一化されているように感じます。水平垂直が強調された真っ白い空間に、真っ白い家具が置かれ、傷やほこり一つが気になるような緊張感のある住まいが、果たして本当に心地良いと言えるのでしょうか。
住まいに対する美意識を持つことで、自分が望む暮らしのイメージもふくらむはず。住空間は私たちの暮らしと密接につながっていますが、同時に人を美しく見せる場であるべきです。「I'm home.」では、自分の価値観を確立した大人の住まいやライフスタイルを伝えていきたいと思います。
I'm home.とは?

I'm home. no.30 NOVEMBER
出版社 商店建築社(2007/09) 1,200円
2000年に「ハイエンドなデザイン&ライフスタイル誌」として創刊し、2007年に隔月刊となる。家づくりを楽しむ一般の読者をターゲットとし、建築、インテリア、プロダクトだけでなく、アートや料理といった暮らしにかかわるものを幅広く紹介している。9月15日発売の最新号2007年11月号の特集は「the reason for LIVING 住まいの顔としてのリビング」、「LOVE BACK TO N.Y. 憧れの街、ニューヨークに住む」。
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