建築・住宅誌 編集長インタビュー
第6回
「月刊ハウジング」編集長 大江治利氏
モノを語らず、事を語って読者の家づくりをナビゲートする

「月刊ハウジング」はハウスコの「家を建てたい」ユーザの皆さんも、一度は手にとった方が少なくないと思います。実際に、どのような方が読まれているのでしょうか?
はじめて家を建てようと思っている人を対象とし、年齢のボリュームゾーンは30代前半に設定しています。読者の世帯年収は、平均よりも少し高めの家庭が多いかもしれません。またリフォームよりも新築をターゲットとしているので年配の方は少ないです。地域別にみると、首都圏以外の読者比率のほうが大きいことも特徴です。編集スタッフは東京に住んでいるため、感覚がずれてしまうおそれもあります。地方と首都圏では土地の価格相場なども大きく違いますから、自分の周りの人たちだけに限らず、それ以外の地域の人たちにも有効な情報を載せるようにと、常に意識をしています。
このようにある程度までデモグラフィックを想定しています。が、そのスペックで読者を設定してしまうと、思考がそれ以上拡がりません。常に「その人たちの本当に知りたいことは何だろう」「彼らが本当はどういう生活がしたいんだろう」と読んでいる人や家を建てられる方の「心象風景」を思い描くようにしています。

2006年の6月にリニューアルされたそうですが、リニューアル後の編集方針をひと言で表現すると?
表紙のタイトルショルダーにもなっている「わかる!見つかる!初めての家づくりをナビゲート」です。まずは「家づくりのいろいろがわかること」、そして、わかって次はどうしようと思ったときに「実物の家の情報が見られること、見つかること」。このふたつの機能を担保して、ターゲットは「はじめて家をつくる人」。そして読者に対しては、一方的に教授するのでもなく、押し付けるのでもなく「ナビゲートする」というスタンスで臨みます。
家づくりには明確にこれが正解というものはありません。でも、「こういう暮らしがしたい」という気持ちがうまく伝えられないと、建った時に想像と違う家になったり、でも家ってこんなものかと思ったりするんです。そこで編集部としては、皆さんの中にある「どういう家に住みたいか」という気持ちを引き出して、そしてうまくやれば自分たちの思いどおりになるよ、どこに向かうかは自分たち次第だよ、とナビゲートしていきたい。
もちろんリニューアル以前に謳っていた、「金額がわかる」という部分は今でも意識しています。実例紹介のページに掲載する物件は額を必ず出しています。読者も「これが知りたかったんだ」と、その部分には非常に高いロイヤリティを示してくれているし、金額を公開することも大切にはしていますが、「金額を知ること」が雑誌を読む目的にはなることはない。「わかる」ことのワンパーツでしかないからです。僕らの目的、つまりポリシーは、それらの情報を提供したうえでナビゲートしていくことですからね。
どのようにして読者をナビゲートされていらっしゃるのでしょうか?実際の試みを教えてください。
「わかる」ためのノウハウ記事は以前から充実させており、今よりもっと全面的に提供していたと思います。リニューアルに伴い、ナビゲートはするもののノウハウは読者自らに見つけてもらう方向にシフトしました。ノウハウに気づいてもらうようにナビゲートする、そのための手法は「ストーリーを語ること」。
「物語」ではなく、英語で「ストーリー」としているのにも理由があります。物語はモノを語るわけですが、我々が語ることはモノだけじゃない。モノじゃなくて事を語る。「物語」というとモノの延長になってしまう気がするので、「物語」も「事語り」も含めて「ストーリー」と称しています。
広告紙面を例にあげて「物語」と「事語り」の違いを説明すると、ハウスメーカーさんは、「うちの家はこんなに性能がいい」「こんなにすごい部品を使っている」と言う。でも、それは「家を建てる僕らにはどういいことがあるんだ?」という問いに答えるところまで落とし込んだ表現ができていないことが多かったんです。メーカーさんが「ツーバイフォーの25mm角をベースに使っています」とモノのアピールをしてきた場合、「それをベースに使うとどういう効果があるんでしたっけ?」と聞くと「虫が寄ってこない」「反らない」など理由はしっかりあるものです。だったらそれを伝えようと。このようなモノから事への置き換えがストーリーを語ることになります。事というのはモノにある背景とか、それによって変わる暮らしとかを指しています。
「家づくり」も同じで、「家」というモノだけに意味があるのではなく、家をつくる過程、それはそれだけで楽しいものですし、また、そこから始まる生活に意味があるんです。だから「モノから事へ」はリニューアル後の大きな編集ポリシーとなっています。
読者からの反響はいかがですか?
以前と比べると、読後の気持ちは大きく変わってきているだろうと思います。以前は、読んだ後、これで安くて耐久性のある家を建てられると満足していたところが、家って面白いかもしれない、建てることで暮らしがすごく楽しくなるかもしれないと思う人が増えたのではないでしょうか。まさにこのように読者の気持ちを動かすことが家を建てる人の拠り所となっている媒体の使命だと思います。
「読者をどう動かすか?」「どういう人に読んでもらって、読んだ後にどうアクションをしてもらうか?」これが大切です。中古車情報誌の「カーセンサー」であれ、国内旅行情報誌の「じゃらん」であれ、結婚情報誌の「ゼクシィ」であれ、同じこと。リフォームや住宅の専門家にならなくてもいいから、人を動かすプロフェッショナルに、伝えるプロフェッショナルになって欲しいと考えています。人の「心象風景」まで立ち入って、「何が満たされたら人は動くのだろう?」と考えながら雑誌をつくり、読者に対してメッセージを発信していくのです。
「人を動かす」ための訓練として、編集部では週に1回のミーティングで、「世の中ウォッチ」というのをやっていますよ。それは毎週ひとつ、人が気持ちが動く瞬間を見つけてレポートするんですけどね。人が動く瞬間を知るための一番のサンプルは自分です。自分が感動したり、嫌だなと思ったときには、自分がなぜそう思ったのかを、もう1回掘り下げて考えてみるように指導もしています。
ところで毎月読者にとって身近な問題を企画として打ち出されていらっしゃいますが、特集はどのようにしてつくられていくのでしょうか?
シーズナリティは意識しています。弊誌の場合、12月発売(12月21日)のものは、はじめて家づくりに興味を持った人がちょっと読みたくなるような記事を用意して、次の1月には、その人たちが次に知りたくなる情報を提供します。与える情報のレベルを念頭においたシーズナリティにあわせたラインアップに、ずっといっしょだとマンネリ化してしまうので、今旬のキーワードを使うなどして具体的な企画を考えていきます。もちろん、家づくりのどんな段階にいる人が読んでも満足できるようにはつくっています。
![]() 「ストーリーを伝える」をテーマにした「月刊ハウジング」では、誌面の至るところに「ストーリー」が散りばめられている。巻頭の連載「HOUSING STORY」は読者が自分の家についての夢物語りを語る「夢の家」と、家づくりのひとつのパーツを取り出して語るコラム「10万分の1」。「10万分の 1」は編集長自らが筆を執る。「ストーリーを伝える」をテーマにした「月刊ハウジング」では、誌面の至るところに「ストーリー」が散りばめられている。巻頭の連載「HOUSING STORY」は読者が自分の家についての夢物語りを語る「夢の家」と、家づくりのひとつのパーツを取り出して語るコラム「10万分の1」。「10万分の 1」は編集長自らが筆を執る。 |
どういう家を見たときに大江編集長の気持ちは動きますか?
自分の建てたい家を自分で理解して、自覚して、それをうまく伝えられて、それに対して建築家さんやメーカーさんから提案を受けたり、もっと話を聞いて検討する。そんな両者のコラボレートの過程がうまくいっていると感じたときには、やはり、できあがってきた建物もいいものに仕上がっていることが多いですね。
家を建てたい人の気持ちが強すぎてもあまり良くないとは思います。編集者の仕事に似ているんです。編集者が自分でデザイナーに対して、ここは赤、青と細かく指示を出すのではなく、こういう誌面にしたいから考えてレイアウトしてと指示するだけでいい。家も同じで、自分で図面を書くようなことをしてはダメなんです。
イメージが強すぎると各論になりますからね。それに対して答える側、建てる側が理解をして「あなたの言っていることはこうですよね?」と解釈をして、十分に咀嚼したうえで、別のアウトプットを提案できるといいです。特にここ数年は安い家をつくりたい人の中で、上手にコラボレートをしている人が増えていますね。自分でやる部分と、お願いする部分を分けて。
コストを下げるだけでなく、DIYをうまく取り入れた家づくりにも関心が高まっていると聞きます。そのほか、最近の「家づくり」のトレンドがあれば教えてください。
ここ203年ぐらいの特徴は、男性が家づくりに参加する比率が高まってきたことでしょうか。男性でもキッチンに対して意見を言うようになったり。インテリアに対しても敏感な人が増えてきて、椅子、ライトなど小物だけでなく、家に興味が行き着いた結果でしょうか。この傾向は今後もますます強まるでしょうね。
それに対して、今がピークだと、今後変わっていくと予想されるのが、自分たちで手を加えて、家族で参加する家づくり。今の30代前半は「家族万歳」という世代です。だから、「どんな家にしたかった?」と聞くと「家族の気配が身近に感じられる家」という回答が圧倒的に多い。要するに間仕切りがないってことなんですけど。あとコンクリートに手形を埋めるとか、海が好きだから貝を埋めるとか。珪藻土を自分たちで塗るとか。家族重視の傾向自体なくなりはしないと思いますが、もう少し個を尊重し、パブリックとパーソナルが同居する形態になるでしょうね。
月刊ハウジングにはハウスメーカー、工務店、建築家、いろいろな手段で家を建てられた方が登場しますが、建築家と家をつくるためのアドバイスをお聞かせください。
建築家と家をつくる手法はふたつあると思います。セレクトショップで服を選ぶ感覚で、この人に任せようと建築家を決めるか、あるいはコミュニケーションをとりながらオーダーメイドで服をつくる感覚でやるか。つまり自分は服のパタンナーではないから型はおこせない、でもこの店にあるものだったらセンスは信じられそうだと。家づくりなら、その人の建てた物件を何軒か見て、こういう家を建てる人いいなぁとパートナーシップを組む。もうひとつは、こうしたいというのを伝えていって、返って来る提案を楽しみながらキャッチボールをする。もちろん、こっちのキャッチボールを推奨します。
いっぱいコミュニケーションをとって関係性を築けば、建築家からの提案も生まれるでしょう。それに施主がこうしたいという要望を否定する提案があってもいいと思う。それをすり合わせてつくっていく。そういう関係性が築けるか否かは、センスはもちろん、人間性も大切です。受け止めてキャッチボールをできる人か、面白いものを返してくれる人か、そいう視点で探してほしいですね。
最後に、大江編集長は個人的にどんな家がお好きですか?
視覚的なギミックがある空間が好きなんです。スコーンと抜けて見えるよりも見えない部分があって、見渡せないその先に何かがあると思わせてくれるような空間がいいですね。うちもわざと躯体(くたい)をずらしています。ズレは緊張感を生みますし、空間に広がりが出る。もちろん、機能、住まい方を担保したうえで、崩したりという楽しみがあるからいいのです。建築家さんには、最後にそこを提案して欲しいですね。
実は、建築家さんの仕事も編集者の仕事と通じる部分がある、と思っているんです。記事をつくるときは9割がた理屈。残り1割のところに閃きがあって、そこがオリジナリティの差につながると思います。建築もきっと同じで、最後の10%のひらめきの部分がその建築の印象をがらりと変えたりすることもあると思うんですよね。
月刊 HOUSINGとは?

月刊 HOUSING (ハウジング) 2007年 02月号
出版社 リクルート 価格:¥500
(株)リクルートから発行されている注文住宅を建てる人のための住宅情報誌(1983年発刊、毎月21日発売)。はじめて家をつくる人を対象とし、わかりやすい家づくりのノウハウと、設備や建材などの豊富な商品情報を掲載する。最新号(2007年2月号)では、「注文住宅の建て方 すべて教えます」と銘打ち、費用、会社選び、間取りなどのさまざまな切り口から家づくりをサポートする。家づくりに関わる職業の人にスポットをあてた「ヒトがたり×コトがたり」や、読者投稿コーナー「夢の家」などの連載も好評。

大江治利(おおえ はるとし)氏
1968年生まれ。1992年にリクルートに入社。中古車情報誌「カーセンサー」の編集部を経て、2005年4月「Goodリフォーム」編集長、ハウジング&リフォームディビジョンメディアプロデュースグループ責任者に就任。2005年10月には兼任で「月刊ハウジング」編集長に就任する。2006年6月に同誌のリニューアルを手がけ、現在、「月刊ハウジング」編集長を務める。
- 月刊ハウジング:http://www.housingnavi.jp/
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