特集・読み物

建築・住宅誌 編集長インタビュー

第5回

「DETAIL JAPAN」編集長 内野正樹氏
建築を観るとき、目より身体を信じること。
”サワサワ”とくる感覚を大切に。

1961年にドイツ(旧西独)で創刊された建築誌「DETAIL」。「DETAIL JAPAN(ディーテイル・ジャパン)」はその日本語版として2005年4月に第1号が発行され、今回の最新号では、節目となる10冊目の発刊を迎えた。建築を構成する素材や部位、設備などに焦点を当てた特集を大きく取り上げ、毎号ともすべての主要コーナーで特集と連動した同じテーマを取り扱う、そんな硬派な構成が特徴の専門誌だ。「建築家にインスピレーションを与えたい」と語る編集長・内野正樹氏に、ディーテイル誌が伝えようとしている建築への視座について話を伺った。
(聞き手:ハウスコ松原)

創刊から1年半ということは、住宅建築誌業界の中でもニューフェイス的な存在ですよね。まず最初に雑誌の背景やコンセプトを教えてください。

1961年にドイツで創刊されたDETAIL誌のコンテンツが6~7割、あとは日本のオリジナルですが、デザインと建築をつくるという両面においてインスピレーションを与えるというのがいちばんのコンセプトになっています。写真によってイノヴェイティヴな空間デザインを伝えるとともに、詳細図面によってその建築がどのようにつくられたのかもしっかりと紹介する。これは、建築雑誌での紹介がデザインとテクニカルなもののどちらかに偏りがちななかでは特異なポジションにあるのかなと思います。

作品をグローバルな規模から精選して紹介しているのも大きな特徴ですね。ミュンヘンにDETAIL編集部があるので地元のヨーロッパの有名建築家だけでなく、優れたローカルアーキテクトの作品も取り上げている。日本のものも多いですが、それにアメリカやオーストラリアの作品もありますね。

"ディーテイル・ジャパンは誌面構成もユニークですよね。

誌面は「ディスカッション」「レポート」「ドキュメンテーション」「ハウス」「テクノロジー」「プロダクト」などのコーナーによって構成されていますが、各コ"ナーがすべてその号の特集テーマと連動しています。住宅や木構造、照明、インテリア等々、読者の関心が高くまた実務に役だつテーマを取り上げて、それぞれの切り口から各コーナーで掘り下げていくというかたちになっています。

「ディスカッション」はその号のテーマのもと、論考やインタビューなどによって幅広い視点から建築をとらえ直すページです。日本オリジナルでは創刊当時から、伊東豊雄さんをはじめとする建築界の第一線で活躍中の大ベテランの方々にインタビューをして、長い設計実務のなかで培った、ふだんは伺うことのできない貴重なノウハウなどを詳しく聞き出しています。「レポート」は、最近完成した建築をその号のテーマに沿って新着情報として紹介。ドイツから持ってきたネタもあれば、日本で新たに入れ込むこともありますね。そしてメインのコーナーは「ドキュメンテーション」。ここでは詳細図面とともに建築物を紹介します。建築雑誌では、一般図といわれる比較的簡略な図面と写真で建築を紹介するケースがほとんどで、その程度の情報レベルだとどうやってつくられたかが分かりにくい場合が多いですが、詳細図面によって、デザイン的にすぐれた作品をそれを実現している技術的側面とうまく関係づけて理解することができます。さらに、「テクノロジー」というコーナーでも、施工に関するものをはじめ建築にまつわる技術情報を紹介・解説しています。

このように建築を幅広く多面的にカバーする誌面構成によって、コンセプトを練る段階から施工までの建築の全プロセスにおいて、建築家のヒントになるようなインスピレーションを与えることができればと考えています。

さきほどお話したとおり、もとはドイツで生まれた雑誌ですが、日本の建築環境に即したかたちでのローカリゼーションがなされていなければ日本の読者に強くアピールできないだろうとも考えています。「ハウス」というのは読者の強いリクエストもあってつくった日本オリジナルのコーナーです。建築のプロセス紹介も読者ニーズが高いので、日本独自のコーナーをつくって紹介したいと思っています。写真と図面、そしてこういう風に考えてつくりましたということが書かれた設計主旨だけによって建築を紹介する雑誌が多いのですが、そこでは設計のプロセスがブラックボックス化されている。でも実際には、建築が建つまでにさまざまな紆余曲折と試行があるわけですね。計画がどのような経緯で変更され最終形へとまとまっていったのか、外部の人とどのようにやりとりをしたのか、問題が起きたときにどのようなアイデアによって切り抜けたのか。この部分の情報は、できあがった作品と同様に重要だと思っていますので、今後、誌面に盛り込んでいければと考えています。

誌面に取り上げられる建築物は、どういう基準で選んでいらっしゃいますか?

デザインと建築をつくる方法の両面において新しい試みがなされ、なおかつその試みによって空間に今までになかった新しい質がもたらされているような建築を紹介するように心がけています。しかし最終的に目指していることがそういうことでも、まずはその空間に身を置いた時、身体に“サワサワ”とくる感覚があるかないか。これが評価の大きな分かれ道になる場合が多いですね。なにかいい加減な基準のように思われるかもしれませんが、美しいとか考え方がおもしろい、共鳴できるというだけではなくて、その空間に対してまずは身体が反応するかどうかなんです。その建築が何で素晴らしいかとかの理由は、その身体の反応にやや遅れるかあるいはもっと後になってしか把握されない。

たとえば、うーん、これは何なんだとか考えた末に、そこに空間構成や素材、構造、光の処理等々に新しい試みや創意工夫を発見するわけですが、けっして、それらの発見や理解が先にあって身体的な反応が起こったり素晴らしいと感じたりするわけではないわけですね。さらに言うのであれば、身体にグッとこないような、視覚にしかうったえない、あるいは頭でしか納得できないような建築は弱い、あるいは浅いような気がします。ビルディングタイプによってはそれが難しい場合もあって、一概には言えないのですけれども。

また、ディーテイルというタイトルではありますが、ディテールが美しいとかよくできているという理由だけで掲載されることは100%ありません。すばらしい建築空間を支えているディテールに注目するのであって、その逆ではないのです

「サワサワ」という感覚、私たちも感じることができるようになりますか?

どうでしょうか……個人差もあると思うので、あまり自信を持ってはいえないのですが、まずは名建築をたくさん見ることでしょうか。私が初めてそれを体験したのは、1930年代にイタリアで活躍したジュゼッペ・テラーニの代表作「カサ・デル・ファッショ」を訪れた時でした。1階のホールに足を踏み入れた瞬間、それまでに体験したことのない、何とも言えぬ感覚にとらわれました。数多く見るのと同時に、さきほどお話したことと同じで、頭や目よりも身体を信じて、つねに身体に聞いてみるようにするということでしょうか。

フィンランドの建築家でユハニ・パラスマという人がいて「THE EYES OF THE SKIN」という本を書いています。彼は視覚に対して視覚以外の諸感覚を対置し、身体を触発するような建築のあり方について述べていますが、建築界でも最近、この身体に関する注目が大きくなっているのではないかと思います。建築家と話をしていても、身体という言葉をキーワード的に使う人が以前よりも多くなってきている。それに伴って、身体に直接的に作用する建築表面を覆う素材について、さまざまな試みをしている建築や住宅も増えています。「身体を触発する方向性で建築を捉える」傾向は明らかにあるんじゃないかと思います。

DETAIL JAPAN別冊は企画編集すべて、日本のオリジナルだ。
「12Architects12Projects」は日本人建築家の作品だけで構成され、隔月誌同様に、各建築の詳細図面を掲載しながら紹介する。
「ジャン・ヌーヴェル 建築の新たなイマージュ」では、パリとミネアポリスに同時期に竣工した、フランスの建築家、ジャン・ヌーヴェルによる建築を取り上げている。表紙から各ページのキャプションのレイアウトにわたるまで、建築のデザインからインスパイアされたアートディレクションが施され、ヌーヴェルの作品を深く知ることができる上、ビジュアル構成も楽しめる1冊だ。

国内外の多くの建築や住宅をご覧になっていると思いますが、内野編集長の記憶に残る「いい家」はありますか?

「いい家」というのは仕事を通じてもちろんこれまで多く接してきましたが、ルドルフ・M・シンドラーが設計した住宅にはなかでも大きな感銘を受けました。幸運にも取材で10数軒をまとめて見ることができたんですが、どの建築も、その空間に入ったとき、「サワサワ」と来るものがありましたね。もしここに住めるとしたら非常にクリエイティヴな気分になるのではないかとも思いました。なにか、住まう人を能動的にし、活動を活性化するように作用するような建築。実際に住まわれている方たちも、ハリウッド関係の仕事をしたり、音楽や美術の仕事にたずさわったりと、クリエイティヴな仕事にたずさわっている人が多かったですね。その住宅とともにある生活がみなとてもハッピーなように見え、建築のあり方として、それと同じ取材時に見たリチャード・ノイトラの住宅とはとても対照的に感じられました。竣工後すでに数十年も経ち、住人も代替わりしているにもかかわらず、みなその家に愛着をもって大切に住んでいる。人を幸福にするとともにそれによって自らも幸福な住宅、そんなイメージをもちましたね。

そのような住宅は、どうしたらつくれるのでしょうか?

シンドラーに関して言うならば、シンドラー的な家をつくる方法論みたいなものはもちろんあると思いますが、「幸福な住宅」をつくる一般的な道筋というものはないでしょうね。そういったものがないという前提で、じゃあどうすればいいのかというと、まずは建築家と建築家に依頼する人との世界観が共振するということが肝要なのではないでしょうか。

クライアントの方は、自分の世界観や人生観に共感できる人と「いっしょに家をつくりあげる」という感覚を持つことが必要なんだと思います。建築の場合、建築家の世界観がそのつくるものに色濃く反映します。だから、この人(建築家)の世界観によって家がつくられるんだ!ということを念頭に置いて、ディスカッションを重ねる。たとえばわかりやすい話で言えば、クライアントが料理をつくったり食べることを日頃すごく楽しんでいて、友人たちを集めてのパーティとかが大好きな人だとしましょう。もし建築家が食べることにも、料理をつくることにも興味がないようだったら、食に関する空間はうまくつくれないですよね。この人だったら大丈夫と納得できるところまでよく話し、さらに可能であれば、その建築家が以前につくったものを実際に見せてもらい、自分の感覚に合うか、そして使い勝手はどうかを見てみる。建築の場合、写真と実物の印象が大きくずれる場合が多いので過去の作品を体験することはとても重要ですね。建築家とその家のクライアントとの間に信頼関係が続いていれば、いつでも来ていただいて結構ですよって言ってくれると思います。

建築には建築家の世界観が投影されるということで言えば、建築家は絶えずものの見方を広げ、そして深めていかないといけないんじゃないかと思います。図面が引けて、技術的なことを理解しているだけでももちろん建築は建ちますが、それだけでは幸福な住宅、あるいは新しい質を持った建築はつくれません。そうした作品をつくり出すためには建築だけでなく、あらゆるジャンルに対して貪欲に情報を摂取してそのエッセンスを理解し自らのものとしようとする姿勢がなければならない。表現者はつねに、まずは「感化」されるところから必ず始めるわけですし、すぐれた建築家は、やはり、いつも多方向にさまざまアンテナを張っているものです。建築をつくり続け、しかも前へ進んでいく上では、もうこれでいいというのはないのではないかと思います。どのジャンルにも当てはまる話ですけれども。

とはいえ第一に重要なのは、やはりすぐれた建築作品に接し、そこから何ものかを「つかみ取る」ことですね。日本だけでなく、世界中いろいろなところへと出かけて行って、実際にいい建築に触れてみる。10月下旬に、われわれの企画でDETAIL JAPAN TOURというのをやって、一週間ほどでパリの20世紀以降の建築を100以上見てきました。もうすでに過去の取材などで見たものも多かったのですが、ル・コルビュジエの、ふだんは見ることのできない個人住宅をはじめ、ジャン・プルーヴェやオーギュスト・ペレ、トニー・ガルニエの作品などもよかったし、アンリ・ラブルーストの旧国立図書館の閲覧室などは「サワサワ」どころか震えが来るほどでした。

われわれが参照しているのは、モダニズム以降か、あるいは同時代的なものと、近視眼的になりがちですが、モダニズムの時代以降にその多くが忘れ去られてしまったもの、重要視されなくなってしまったものに今一度、眼を向けてみたほうがいいのではと思いました。昔に戻るということではもちろんないのですが、たとえば古典や古典主義のプロポーションやスケールなどは、今一度、じっくりと吟味してみるべきかもしれませんね。ル・コルビュジエの作品にはあらためて感動を受けましたが、彼は明らかに彼以前の建築を研究して大いに「感化」されているわけですからね。今回のツアーに参加いただいた建築家のひとりは、日本に帰ったらつくる建築が変わってしまいそうだとまで言っていました。

しかし年がら年中建築体験の旅に行っているわけにもいきませんから、そのときはこの雑誌をどうぞ(笑)。よく読み込んでいただいた時には、その場に居ながらにして、建築デザインのヒント、あるいは建築の新しい見方を必ずやゲットしていただけるのではないかと思います。

DETAIL JAPANとは?

DETAIL JAPAN(ディーテイル・ジャパン)2006年12月号
出版社 Reed Business Information(2006/09/28) 価格:¥2,100

ビジネス分野を中心に全世界で100誌以上の専門誌を手がけるグローバル企業であるReed Business Informationにより、1961年にドイツで創刊した建築雑誌「DETAIL」の日本版(2005年4月創刊、隔月発行)。インテリア、ファサードなど建築のパーツに着目したり、コンクリートなど建築素材に焦点を絞った特集が特徴。建築設計者向けの業界専門誌。最新号2006年12月号(NO.10)の特集は「軽量建築の現在形」。軽量建築による洗練されたデザインと、その基盤となる施工方法を詳細図面とともに紹介。また、今号では人気の高い「ハウス」コーナーに注力。20ページ以上にわたり、注目の2軒を紹介する。

内野正樹(うちの まさき)氏

1960年静岡県生まれ。1982年に編集者となり、美術雑誌を経て、88年より建築誌の編集にたずさわる。2005年4月、DETAIL JAPANを創刊。現在、同誌編集・発行人を務める。

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