特集・読み物

建築・住宅誌 編集長インタビュー

第4回

「日経ホームビルダー」編集長 真部保良氏
編集方針の柱は「顧客対応」。「プロ」と「建て主」の間に立ち、
プロが知りたい情報を伝える

工務店をはじめ、住宅建設に携わるプロに愛読者を持つ業界専門誌「日経ホームビルダー」。編集長をつとめる真部保良氏は、自身も建築士であり、建設会社で現場にたった経歴を持つ。現在は「プロ」でもなく「施主」でもなく、第三者的な立場から業界を見ている真部氏に、業界の動向、「プロ」との家づくりのコツを伺った。(聞き手:ハウスコ松原)

まずはじめに、創刊の経緯と雑誌のコンセプトを教えてください。

日経ホームビルダーは1999年に創刊しました。それまでにも住宅建設の業界誌はいろいろありましたね。業界側からの視点で、業界の理屈で物事を語るのが業界誌とするならば、我々は、業界とはある程度の距離を置いたところから、第三者的に、社会一般の立場、つまり、住まい手の立場から見た時に業界がどうなのかという視点で雑誌をつくろうと考えました。これが我々のコンセプトであり、業界各誌の中における、我々の存在価値だと思います。

実際の購読者はどのような方々ですか?

工務店、住宅メーカーなど住宅建設に携わっている方が全体の6割ぐらい、建築設計事務所に勤めていらっしゃる方が2割ぐらいを占めているでしょうか。建材メーカーや、住宅産業の周辺の方もいらっしゃいます。

メインターゲットとなる工務店の業界は、今、二極化していると思います。昔ながらのやり方を変えることができず、お客様が来てくれないと悩む工務店。もう一方は、30歳代、40歳代の2代目が引継ぎ「親父のような昔のやり方ではやっていけない、むしろ、新しいチャレンジをすることによって、お客様に納得してもらえるものがつくれるはず」と顧客を掴むため、いろいろなことにチャレンジ意欲のある工務店。大きくこの2つに分かれてきているのではないでしょうか。我々のターゲットは後者です。

雑誌をとおして情報発信する際に、どのような編集方針を掲げていらっしゃいますか?

創刊当初から継続して「顧客対応」「性能」「コスト」の3本柱を立てています。「性能」とは、耐震性、耐久性といったこと。最近話題にもなっていますし、耐震性、防犯性への住まい手の関心は高まっています。建築家と家をつくろうというお客様も、デザインだけで満足する方はいないでしょう。デザインと性能とのバランスをうまくコントロールできる家づくりのプロになろうというメッセージで、「性能」を柱のひとつとしています。もちろん、建築家の皆さんにも、自分の仕事やデザインはこうあるべきだという各々のスタイルはあると思います。それに加えて、住まい手の「性能」へのニーズに応えるということも、重要な点だと思うんですよね。ホームビルダーはどちらかと言えば後者のほうにウェイトを置いています。

そして、私が編集長に就任した今年の3月からは、とりわけ「顧客対応」を強化しようと考えています。

業界を問わずビジネスには“売り手”と“買い手”がいて、「“売り手”が“買い手”の気持ちを考えて売る」というのが当たり前のことなんですけれども、住宅の世界は買い手が考えていることがわからず、手探り状態でやってきた業界だと思うんですよね。決してお客様のことを見ていないわけではありませんよ。非常に良く見ているのだけれども、お客様の本音がわからない。そして、わかっていないことは気づいていて、それをとても知りたがっている。ですから、「顧客対応」を編集方針のひとつとし、我々が介在することによって、お客様が心の中では、こういうことを考えていますということを、工務店、建築家に伝えることを目指しています。

「顧客対応」について、具体的にどのような誌面づくりをなさっていますか。

意識的に、顧客説明にも使えるような図を掲載したり、プロ向けでありながらも、できるだけわかりやすくひと目で要点が掴めるようなつくりにしています。お客様との打ち合わせの際に、工務店の方や建築家の方が、この雑誌を開いて説明してもらえるようなシーンが生まれることが理想です。

また、ユーザの意識を誌面に登場させるようにもしています。住宅が登場する場合には、「●●の声」として建て主の声を載せたり。住まい手、これから家を建てる人、すでに建てた人がどのように感じているかという情報ですね。とりわけ、家が建った後どう思っているかというのは、意外と知らない、だけど一番知りたがっている情報なんですよ。

建てた後にお客様と接触することは、営業活動として考えたとき、違うお客様を紹介してもらえたり、リフォームやメンテナンスにつながる大事な場面です。その反面、それは、問題が表面化するとまずいと、躊躇する場面でもあるんです。ですから、ホームビルダーでは、どうやってコンタクトをとればいいかという事例や、建て主がプロに求めていることを紹介するようにしています。

地域に根ざした工務店の中には、印刷物を配ったり、定期的に大工の作った台などを商品としてバザーを開催したりして、うまく心をつなぎとめている方もいますから、そういう事例も。新築が減って、リフォームやメンテナンスにしても、リフォーム業者が参入してきている今、建てた後にお客様の気持ちをぐっと掴んでおくことが重要になっています。

積極的にいろいろなことにチャレンジしている工務店は紹介していきたいと思っています。それを採用するかしないかは、読者に考えてもらえばいい。紹介することが刺激やきっかけになれば。

表紙にも、住む人の暮らしぶりや個性を伝えるようなカットを掲載。狭小住宅、リノベーション住宅、和風住宅など、枠にとらわれない幅広いデザイン住宅を取り上げる。最新号となる2006年ではリビングルーム特集を組み、個性派インテリアを紹介。

成功事例、失敗事例、さまざまな事例を見てこられた真部編集長にお聞きしたいのですが、工務店や建築家との家づくりの成功の秘訣は何だと思いますか?

やはりコミュニケーションですね。うまくいっているときには問題がないのですが、お互いに違和感が生じたときに、関係を修復しなければなりません。家づくりをはじめる前に、そうなったときに修復でき得る相手かどうかを見極めてミスマッチを防ぐためにも、コミュニケーションは大切です。工務店の担当者、建築家、相手の立場はどうあれ、お互いを良く理解するところからはじめることが大事だと思います。トラブルが起きるとき、どちらかが悪いというケースは少なく、考えていることがうまく相手に伝わっていない場合が多いですから。

コミュニケーションを図るツールとして、ブログなどは大変適したものだと思います。最近では、工務店でもブログを活用しはじめているところがあるんですね。従来の工務店は、半径数キロ圏内にチラシを配布し営業をしていたわけですが、その工務店ではチラシの配布は廃止し、社長、所員にもブログを持たせて情報発信しています。工務店は地域に密着していますから、地域への情報発信に果たして、全世界で見られるブログが適切なのかと思いますよね。でも実際に活用した工務店に聞けば、真剣に家を建てたいと考える人は、そういうところからも情報収集をするから、有効だよ、冷やかしの人は見に来ないからねと。

ブログには、家づくりに関することだけではなく、趣味の話、日常生活でどのように物事に対して感じているのかを書くわけです。だから、自分がどういう人間なのかを伝えるには、ブログは適しているんです。

一方で、お客様の側は、プロはきれいごとしか言わないっていう目も持っています。従来型のチラシや住宅展示場では真実味がいまいち伝わらないのはそういう理由。だからブログで同じことをやっても価値はありませんね。

住まい手側からの情報発信にもブログは有効ですよ。ひとつには「自分がこういうブログを書いているから手を抜かないでね」という意味合いもあるかもしれませんが、それはさておき、自分の考えをつきあっているプロの方に読んでもらえるのがいい。口には出さない、面と向かってはいえないようなことが、ブログの文章に表れてきますから、プロも住まい手の気持ちがわかるようになる。言葉の行間からもニュアンスは伝わったりしますからね。これからは、mixiなどSNSによっても、このような動きはさらに活発になってくると思います。これらを活用してコミュニケーションをとれば、いい家は建つんじゃないでしょうか。

工務店と建てる、建築家と建てる、選択肢はいろいろとありますが、家づくりのパートナー選びのコツはありますか。

そうですね、僕自身は地場の工務店と建てた家に住んでいますが、僕の場合、決め手となったのは担当者の人柄だったと思います。それが偶然工務店の人だった。自分の考えていることを理解し、言葉の裏も掴みとって言葉を返してくれるとか、そういうことが決定打になりました。建築家でも住宅メーカーでも、やはり最後は、「その人と気持ちが合うか」だと思いますよ。だから、私にとっての「いい」パートナーと、他の人にとって「いい」パートナーはきっと違ってくるでしょうね。

私が今、「いい」か「悪い」かを判断して、ひとつ選ぶことを決めなければいけないとしたら、おそらく「今まで建てた住まい手の人を何人か紹介してください」と言うと思います。そこで紹介してくれたなら、たぶん私は安心するでしょうね。渋るようだと、お客さんに信頼されていないのかなって思うでしょう。たとえ、家を見せてもらったときに、その建て主が「あそこは使いにくいんだよね」って言ったとしても、そういう場に自分を連れて行ってくれるような工務店や建築家がいいなと思います。建った後に、お客様が本音を言っている、そういう関係を築けているのはすばらしいと思うので。

真部編集長自身はどのような家が好きですか?

頑張ってすまなきゃいけない家は大変だなと思います。普段は家のことを気にせずに暮らしていて、ふとしたときに心地よいなと感じる、そして、それがこの家のおかげかなと思えるような住宅。住みはじめて何年か経ってお邪魔したときに気持ちのいいなと思える家ってありますよね。家自体も素敵なんだけど、工夫して住んでいて、暮らし方とマッチしている家ですね。

最後に、今後、日経ホームビルダーの目指すところを教えてください。

まず、建築家や設計事務所に勤めていらっしゃる方に向けた記事にも力を入れていきたいと思っています。これまでは設計ひとつをとっても、工務店と建築家に求められるニーズは異なりました。工務店には建て主のニーズを翻訳して形にすることが、建築家には新しい提案が求められてきましたから。でも、おそらく今後は、共同してお客様のニーズに答えていくことが必要になったり、設計事務所の中で工務店よりの設計を行なうところも出てきたり、デザイン力のある工務店も出てくるでしょう。つまり線引きが曖昧になって、設計事務所も工務店もそのポジションの取り方が多様化してくるんじゃないでしょうか。お客さん側も、自分に合うのはどこなのかを見極めることになるんでしょうね。

そして、今後は、今のホームビルダーのコンテンツを、プロだけでなく、建て主候補の方にも発信していく方法を探っていこうと考えています。先ほどもお話しましたが、これまでも顧客説明に使えると銘打った記事や図表の掲載によって、工務店を通して間接的に一般の方に情報発信をしてはいました。が、もっと直接的に発信していく方法を探っていきたいと思います。

今の読者にも一般の方はいらっしゃいます。家づくりに関心をもっている方や、建てようと思っている方たちですね。プロ向けの雑誌ですから、文章表現などは多少難しいとは思います。が、内容としては「地震が来ても崩れないのはどういう家か?」とか、「長持ちする家は?」とか「メンテナンスや光熱費にはどれだけお金がかかるのか?」とか、そのような、一般の方がもつ関心や疑問に応える記事もありますから。

我々がプロの側だけを見て情報を発信して、お客様のことを伝えますといっても、プロとお客様の間にある溝はなかなか埋まらないと思います。その溝を埋めるためにも、双方が使える、双方が見ている情報を提供していきたい。そうして、建て主とプロとの距離を縮める役割を担っていきたいと思います。

日経ホームビルダーとは?

日経ホームビルダー 2006年10月号 出版社 日経BP社(2006/10/22) 一部売価格 \1,500円
ご購読、ご購入のお申し込みは、日経BP 読者サービスセンターまで。
日経BP読者サービスセンター03-5696-6000(年中無休.6022時.申込受付専用)

1999年に創刊、工務店、建設会社、を読者ターゲットとする業界専門誌(毎月発行)。全国の発行部数は21,000 部。書店売りを行なわず、定期購読のみを受けつけている。誌面では「住宅建設技術者のための実務情報」を提供する。業界の最新ニュース、その時々に話題性の高いトピックに関する特集、現場で役立つ技術の紹介など、プロが求めるさまざまな情報を掲載する。
最新号2006年10月号(no.088)の特集は「それでも使う!?国産材」。国産材の賛否を第三者的な視点から分析する。「リフォームトラブル回避術」や「集客のデザイン」などの連載ページには、現場に役立つ情報が満載。

真部保良(まなべ やすお)氏

戸建て住宅専門誌「日経ホームビルダー」編集長。1961年9月29日生まれ。香川出身。京都大学卒業後、建設会社の現場監督を経験。1989年日経BP社入社。「日経アーキテクチュア」などの記者を経て、2006年3月から「日経ホームビルダー」編集長に。家づくりのプロにも消費者にも役立つ情報発信の可能性を探る。一級建築士。妻と高1長男、中2二男の4人家族。趣味はサッカー、トランペット、コントラバス。

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