建築・住宅誌 編集長インタビュー
第2回
「プラスワンリビング」編集長 依田邦代さん
家づくりはワガママになっていい。マイペースでいい。
人に見せるために作っているのではないから。自分の家なのだから

創刊は1986年。以来20年間、家庭の主婦をターゲットに、オシャレだけどちょっと手を伸ばせば手が届く、そんな身近なインテリア情報を提供してきた。家づくりに対しても「理想のインテリアを実現するために、どういう家を建てる?」というインテリア雑誌ならではのユニークな切り口で迫る。プラスワンリビング編集長依田邦代さんに魅力的な家を手に入れるための秘訣を伺った。(聞き手:ハウスコ松原)
各住宅誌がさまざまな角度から家づくりを取り上げていますが、プラスワンリビングは“インテリア”に主軸を置いていらっしゃいますね。そのコンセプトと読者ターゲットを教えてください。
プラスワンリビングの読者は家庭の主婦が多いですね。専業主婦で、インテリアを楽しむための時間的、精神的、そして経済的な余裕のある方です。今の30代、40代の女性たちは、結婚して子どもを産む前は、自分を高めるため、そして充実したライフスタイルを実現するために、仕事をして、ショッピングや海外旅行に行き、いろいろなものを見て聞いて、体験してきた世代です。彼女たちが家に入ると、それまで自分の中に集積してきた経験や知識や感性を発揮できる場所を求めます。そのエネルギーを集中させる場所としてインテリアを選ぶようです。
プラスワンリビングでは彼女たちの欲するインテリア情報を見せています。子どもがいて、普通の生活をしている人が実現できる、そしてお客さまが来た時もステキだねと言ってもらえるようなインテリア。それは机上の空論に終わらない、生活に活かせる実用的なものである必要があります。うちの雑誌は夜に読まれている雑誌なんですよ。子どもが寝静まって、旦那様が帰ってくる前のひとりの静かな時間に。自分のためにお茶を入れて、パラパラとページをめくりながら、これが欲しいなとか、ソファの配置はこうしようとか、構想を練りながら。
自分の家でそのインテリアを実現することを想像できるというのがポイントですね。そのためにどのように誌面を構成していらっしゃいますか?
取材は実例主義です。スタジオに家具を持ち込んで撮影してスタイリングを提案するような企画はほとんどなく、実際に人が住んで生活している様子を取材するページが多いんです。その空間で家族が生活をして、キッチンでは毎日食事をつくって、子どもがおもちゃをいっぱい出して遊んでいる家を紹介します。子どもがいて、暮らしがあって、でもステキなお部屋をつくっている様子を見た読者は、同じ日本で、自分と同じような生活環境でも、こんな風に暮らしている人がいるんだ!私も頑張らなくちゃ!って発奮されるわけです。

誌面に登場するような快適な暮らしを実現するためのコツはあるんでしょうか?
常に意識すること、自分の家を他人の目で見ることです。そのために自分のうちを写真に撮ってみるのもひとつ。また、お客様に頻繁に来てもらう。毎日生活していると、目が慣れてしまって、散らかっていたとしても、こんなものかと思ってしまいますからね。
キッチンやバス、リフォームなど毎号さまざまな特集を組まれていらっしゃいますが、依田さんが感じている最近のインテリアの流行を教えてください。
自分のライフスタイルや趣味に合わせた個性的な家づくりをする人が増えていると思います。ライフスタイルにあう家に住んでいる人の事例を雑誌で見たり、海外旅行に行ってリラックスできる快適な空間を体験したり、そのような経験を通して、毎日の生活の場である家を、自分がハッピーになれる場所にしたいと考え始めたのでしょう。雑誌や人の真似をするのではなく、うちの場合は何が必要なんだろう、どうやったらそれができるんだろうって。
たとえばですね、最近では「アトリエ」をつくる人も増えています。主婦の皆さんが布小物やビーズ小物をつくるとしたらダイニングでつくるでしょう?その場合、食事の時間になると片付けないといけません。そこで「どんなに小さくても出しっぱなしにできるスペースが欲しい」と思うわけです。旦那様に書斎があるように。そういう主婦の趣味室をプラスワンリビングでは「アトリエ」と呼び、43号では「私の“アトリエ”お見せします!」という特集も組んでいます。このように自分のプライバシーを保てる場所と、家族みんなで集まる場所をきっちりと分ける傾向は今後も強くなっていくと思います。
また最近特集ページを設けることが多いのが「DIY(Do It Yourself)」。 個性にぴったりあう家を建てたいと考えた時に、白は無難かもしれないけど、でもうちはカラフルにしたいよねって意見が出たとします。そうした時に家族全員でドアとか壁とかペンキを塗る。今までは業者さん任せだったところも、やってみると楽しいし簡単だってことがわかってきたんですね。そのためのペンキや塗り壁材も増えていますから。それに家づくりの予算は限られています。でも無垢板を使いたい、インテリアにお金をかけたい、となるとコストを抑えるためにもDIYは有効です。自分たちでやれば職人さんに払う人件費がかかりませんから。
そして、ここ数年はナチュラルスタイルが主流でしたが、白に茶系という組み合わせにもそろそろ飽きがきていますね。そこで色やライティングに凝りたい人も増えてきました。蛍光灯ではなく白熱灯のフロアランプやテーブルランプを何灯か使うと、部屋の奥行き感や陰影が出ます。また、テーブルの上のペンダントだけで食事をすれば、親密な雰囲気になります。ただナチュラルなだけではなく、奥行き感や凹凸間を出したり、色を加えたり、壁に絵を飾ったりと心理的な意味合いで生活に彩りを加えることの楽しさに気づきはじめたようですね。
そのようなインテリアのお手本にしたいのはヨーロッパでしょうか。インテリアの歴史が長いですから学ぶべきところは、まだまだいっぱいあります。そして、ヨーロッパでも日本でも、その伝統を見直して、現代の私たちのライフスタイルにどのように取り入れるかというのが、今後私たちが提案していきたいところです。たとえば畳の和室と他の空間とのコーディネーションの仕方などです。

ところで、そのような個性的な家づくりを目指す方の中には建築家と家を建てる方もいらっしゃると思います。「家づくり頼みたいのはこんな建築家」という連載がありますが、ここに登場する建築家さんはどのような方ですか?
アメリカでは家を建てるときには建築家とインテリアコーディネーターにセットでお願いするのが通例です。日本の場合は、ハウスメーカーには専属の人がいたりもするけど、建築家に頼む場合はそうはいかない。お金の配分も「器をつくるのに精一杯で、中のことまでは考えもお金も及びませんでした」という方も多くいらっしゃいます。住み始めてみて、お部屋が自分の思ったとおりでないことに気づいたら、せっかく家を建てても楽しくないですよね。普通は家を建てる、それからインテリアを考えるという流れかもしれませんが、プラスワンリビングでは、理想のインテリアを実現するために、どういう家を建てるかという発想が軸にあります。そこで生まれたのがこの企画です。プラスワンリビングの読者にとっては、建築家と家を建てる場合にも、インテリアのことも考えて家づくりをしてくれる人がいいわけです。その方のそれまでの施行例を見て、こういうお部屋をつくる人だったら、読者からも頼みたいって声があがるであろうと思った建築家を紹介しています。
建築家の方は、建材などの知識は豊富に持っていらっしゃるから、そのあたりについてはアドバイスをしていただけますよね。それに加えて、インテリアのほうにもプロフェッショナルになっていただいて、住み手側が持っているインテリアの要望も汲み取って、それを設計するときに「こうしてみたらどう?」とアイデアを出してくださるといいですね。予算、インテリアなども含めて、親身に相談に乗ってくださる建築家の方と出会えたら、ラッキーだと思いますよ。
これまでにたくさんの家を見ていらっしゃると思いますが、どのような家が印象に残っていますか?
住んでいる人の生き方が伝わってくるようなおうちです。住まいは住み手を表しますから。乱雑で、色があってなくても、空間に入った瞬間に、すごい楽しいとかチャーミングだなって思わせてくれる家ってあるんです。海外の雑誌に載っている家で、散らかっているけどチャーミングって思うことはありませんか?私は乱雑さと無造作のボーダーはどこにあるんだろうっていつも考えていて。そういうおうちって、おそらく、灰皿1個、花瓶1個、どれもいい加減に買ったものがなく、自分が本当に気に入ったものだけを揃えているんじゃないかと思います。
ここだわりながく、使えればいい、そんな気持ちで揃えたものが出しっぱなしだと乱雑に見えるけれど、自分が好きで揃えたものばかりだと、色や形がまちまちであっても、ひとつの世界をつくりだすことができる。その違いでしょうか。でも、新築した時はお客様もいらっしゃるだろうし、家具も全部揃っていないと・・・って思いますよね。とりあえず椅子が足りないから買っちゃおう、照明が足りないからこの蛍光灯でいいか、まぁまぁ気に入っているから、いいかコレでって。そういうのが積み重なると部屋に愛着をもてなくなるんですよ。気に入ったテーブルが見つかるまで、しばらくはダンボールをテーブル代わりにして買わない。それぐらいまでこだわると、きっとその人らしいステキな部屋ができると思います。
それに、私たちがこのお家ステキだなと思って、取材させてくださいって頼んでも、「まだ完成してないから」って渋られることも結構あるんですよ。私たちから見ると、もう十分に完成しているんだけど。その人の思い描いているイメージにはまだ程遠いんでしょうね。『こういう家をつくりたい』という完成形のビジョンを持てるか、というのも家づくりにおいては大切なことです。家づくりは、ワガママになっていい。マイペースでいい。人に見せるためにつくっているのではないから。自分の家なんだから。
![]() 木材家具に床は茶色、インテリアは白。ここ数年は表紙にはナチュラルテイストのリビングやダイニングを掲載し、特集ではナチュラルな部屋づくりを取り上げる傾向にあった。最新号ではビビッドカラーの扉が登場。個性的な家づくりを志向する人が増えてきたことを象徴するかのようだ。 |
最後に。依田さんがお住まいの家について教えてください。
20年前に建てて、今ちょうど、リフォーム中です。建てた頃は白が好きだったので、中も外も白にしました。が、今回は色も使います。趣味は変わっていきますから。 20年経った今でも私の家は完成はしていないんですよ。家が完成することは、おそらくないでしょうね。完成することなく変わり続ける、それが楽しみでもあります。本当は家を建てた時がスタートなんですが、日本では家を建てるお客様は最初に完璧なものを求めるでしょう?その時が完成形と思っているから、それからはあまり手を入れない。床が古くなったとかを理由にリフォームすることがあっても、インテリアを変えるために手を入れる人は少ない。
職業柄ということも、もちろんあると思いますが、フランス人のテキスタイルデザイナーで、お部屋のカーテンやクッションをしょっちゅう変えている方を取材したことがあります。「ファブリックやテキスタイルはたえず変わるインテリアだ」って。「そういう楽しみを日本人に提案したい」って。
家は、最初は器だけをつくっておいて、中を頻繁にいじればいいんじゃないかなと思います。扉だってノブひとつをかけるだけで印象は変わりますし、キッチンもひとつのパーツを変えるだけでも雰囲気はだいぶ違いますから。ちょっとずつ変わっていく、その過程を楽しむんです。インテリアは楽しめることが一番ではないでしょうか?
PLUS1 LIVINGとは?

PLUS1 LIVING (プラスワン リビング) 06月号
出版社 版社 主婦の友社(2006/05/06) 価格:¥ 1,400
1986年5月に創刊、インテリアに高い関心を持つ30代の家庭の主婦をターゲットとしたインテリア情報誌 (隔月発行)。家で過ごす時間をより充実したものにするためのお役立ち情報を提供する。家づくり、リフォーム、 DIY、家具、キッチン、ガーデニング、海外の住宅情報など、さまざまな角度から住まいを捉えた特集を組み、住まいとインテリアの実例を紹介し、理想のインテリアの実現するためのノウハウを伝える。最新号2006年06月号(No.43)では、「Beautiful&Useful Kitchen」と題する特集を組み、キッチンの実例紹介に加えて、キッチンリフォーム術、キッチンカタログなどをも紹介。そのほか、DIYリフォーム、メールオーダー特集など、オシャレでありながら、実用的なインテリア情報が満載。

依田邦代(よだ くによ)さん
「プラスワンリビング」編集長。お茶の水女子大学卒業後、1981年主婦の友社入社。「エフ」「コモ」などの女性誌編集者を経て、1999年より、同誌の編集長を務める。「プラスワンリビング」のほか、 「自分でつくるナチュラルインテリア」 「おしゃれなインテリアのヒント200」など、数々のインテリアムックを手がける。夫と高3長男、中1長女との4人家族。趣味は美術鑑賞。
- プラスワンリビング:http://www.plus1web.com/
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