建築・住宅誌 編集長インタビュー
第10回
「チルチンびと(風土社刊)」編集長 山下武秀氏
住まいとは、自分の暮らしや生き方など、アイデンティティを表現するもの。

1997年の創刊以来、“自然素材”や“地球環境への配慮”をキーワードとする家づくりを紹介してきた「チルチンびと」。エコ住宅や日本古来の木造を好み、かつ家づくりを考えている読者に向けて、独自の視点から情報発信をする。現在、同誌編集長をつとめる山下氏に「チルチンびと」が伝えたいこと、最近の住まいづくりの傾向を伺った。(聞き手:ハウスコ松原)
近年、「自然素材」という言葉を日常的に耳にするようになりましたが、「チルチンびと」でもこちらは重要なキーワードになっていますね。まずはじめに「チルチンびと」のコンセプトを教えてください。
創刊以来、「木造住宅」をひとつの切り口として特集を組んできました。また、それをつくる大工、左官、建具、そしてつくるための木材、ひいては林業を、企画のベースとしてつくっています。
戦後60年で、ハウスメーカーによる住宅の施工と新建材の利用が増加しました。工務店が施工を担当する場合にも、建材メーカーから買った材料を組み立ててつくるのが主流になっています。早く安く、そして大量に家がつくられるようになりました。その結果、大工や左官など職人仕事は駆逐されて現在にいたります。
本来、住宅建築というのは、木を育てて伐採し、それを材料に専門のつくり手がつくりあげるという社会的な生産の仕組みで生まれてくるものです。もちろん、どういうつくり方をするかによって生産者や職人の仕事の有無も決定します。
住宅産業においていま失われている、そのサイクルと技術を復権させていくことが「チルチンびと」の大きな役割であると考えています。

「住宅建築」の企画・営業に携わり、その後、和のインテリアをテーマにする建築専門誌「コンフォルト」の立ち上げにも関わったとお伺いしていますが、山下編集長の「チルチンびと」立ち上げまでの経緯を教えてください。
「住宅建築」を担当していたころから、「民家の再生」などテーマに企画・営業をしていましたし、「コンフォルト」では日本のインテリアを見直すということをテーマに立ち上げています。いま「チルチンびと」で扱っているテーマに近いことをこやっていましたね。会社を辞めたときに、この風土社という出版社を立ち上げ、自分で雑誌をつくることにしたのです。「住宅建築」の平良敬一さんや、OMソーラー研究所の奥村昭雄さんのサポートを受け、当初はOMソーラー協会と業務提携してスタートし、1年後からは独立した経営で発刊し続けています。
コンセプトは先に伝えたとおりです。雑誌の創刊直後にちょうど、シックハウスの問題が話題になり、「新建材」に対して、耐久性を疑問視するだけでなく、その健康被害もクローズアップされるようになりました。そこで木造住宅を見直す流れが出てきました。また昨今では、CO2削減が叫ばれています。住宅においても国土交通省の通達でCO2排出量の数値化がはじまっています。木造住宅、とりわけ地域でつくりあげる住宅は、新建材をつかった場合に対して、生産や輸送で発生するCO2は少なく、その点でも「チルチンびと」の提案する住宅は、時代の潮流になってきているのではないでしょうか。
主人公は時代です。また時代に生きている人です。その時代をいろいろな読み方をして雑誌はつくられるものですね。時代は動いていますから、雑誌はその半歩先を見てつくるものだと思います。
住宅建築の雑誌はたくさんあります。差別化するなら、「チルチンびと」は小料理屋雑誌と言えるでしょうか。量と安さでは大手チェーンには勝てませんから、材料をよく選び、丁寧に料理して、きれいに盛りつけて提供する、小料理屋路線。撮影も僕が全部立ち会っています。写真が命だから。カメラマンといっしょに現場でつくっていきます。一物件につき最低でも2回は取材をしますしね。僕は編集長ですが、魚河岸に自分で行く、板長とでもいいましょうか。
読者の中心はどういう方でしょうか。
創刊したときから、読者対象は住宅をつくるエンドユーザーに設定していました。そしてそのユーザーに近いところにいる工務店も。実際には3割程度が工務店ですね。中には一部設計の方もいらっしゃいます。
創刊当時の読者には、「自然素材」や「エコ」に熱烈な人が多かったと記憶していますが、最近の読者は変わってきていますね。環境や健康も意識はしているけれども、自ら運動を起こすほどに熱い人はいない。家を建てる時にも、素材にこだわるのは当然で、それよりも自分と家族が望む生活が送れる家かどうかということが一番にある人が増えてきたと思います。私たちも、住まいは、生活の在り方や生き方などアイデンティティの表現だと考えています。チルチンびとのキャッチコピーにも「住まいは、生き方」とありますしね。
自然素材を使った木造住宅といっても、一軒一軒まったく異なりますからね。建築家がつくったとしても住みこなしているのはそこに住む人ですから、その暮らしが家に表われます。僕たちは取材前に図面を見ていくことが多いのですが、実際に行ってみると想像とはまったく異なるものだったりしますから。
「チルチンびと」はテーマ性が明確な雑誌だと思いますが、読者となる家を建てたい人たちに年齢や地域性など特徴はありますか。
夫婦共稼ぎで、住宅だけではなく、衣食住にある一定の価値観を持っている人が多いと思います。とりわけ生協や生活倶楽部が活発な地域での販売部数が多いという特徴がありますから。たとえば、神奈川、長野、岡山などですね。
![]() 木や土、風、これらはチルチンびとに欠かせないキーワードだ。過去の特集では、「小さな木の家」「火を囲む暮らし」「民家暮らしは楽し」など、自然と共存する家、生活スタイルを取り上げている。最新号では「 エアコンいらずの生活術」など、暮らしのノウハウも掲載する。 |
生活へのこだわりが強い人たちということですね。
話は変わりますが、「チルチンびと」本誌、WEBサイトともにある「地域主義工務店の会」とはどんな活動なのでしょうか。
5年前、全国の工務店に声をかけて、自然素材を利用する組織をつくろう、と考えて自然素材や建材についての勉強をすることを目的に工務店を組織化したのが最初です。地域の工務店が地元のハウスメーカーに負けないで生き残っていくには、総合的な力と知識を身につけなければなりませんから。たとえば自分がつくる建築資材に対する知識だったり、CO2の削減を数値化できるノウハウだったり、住宅建材の成分を知ってそれを施主に開示できるだけの力です。
工務店の会では、月に11万円の会費をいただいて、建材、耐震、デザインなどの講習を開いています。また雑誌とサイトで登録している工務店を紹介しています。この会に集う工務店同士はメールなどで自由に情報を交換することができますから、お互いに知らないことや成功したことの情報共有も可能です。登録している工務店からは。年間の着工数が3棟だった工務店が27棟までに伸びたという報告もあがっていますよ。
この組織があることがひとつのきっかけとなって、大学の研究室からの研究協力の依頼も来ています。
出版社で研究をするというのは珍しい取組みですね。どのような研究に協力されたのでしょうか。
早稲田大学の田辺真一研究室からの依頼で、地域主義工務店の会の登録工務店の新築住宅に含まれるハウスダストを測定して提出しました。
もともとWHOから世界各国に、「小児ぜんそくの原因がハウスダストに含まれる化学物質ではないか」という論文発表に対するリサーチ依頼があったのがこの研究の発端のようですが、厚労省から田辺研究室に、そして風土社に依頼があったという流れです。

それがなぜ、「チルチンびと」に?
地域主義工務店の会の工務店で建つ住宅は、仕様書どおりの建材を使って家をつくっているからですね。家がどんな建材で、どのようにつくられたかがすべてわかります。
食の世界では有機農産物の認定システムがありますよね。トレサビリティが義務付けられています。化粧品でも成分表示が法的に義務付けられています。なのに住宅だけはそれがありません。国土交通省の管轄ではホルムアルデヒドは発散量の規制と、クロロピリホスは使用禁止だけ。厚生労働省からは室内環境に限った13物質の基準規程。文部省からは学校建築での規制がありますが、住宅に関してはない。
だから、工務店の会の登録工務店のように、トレサビリティをすべて開示した住宅づくりをしているのは珍しいことなんです。そこで研究データを出すことも可能でした。
住宅のトレサビリティが開示されたり、そこでのCO2の削減が数値化されるようになると、施主の家づくりへの取り組み方も変わってくるように思います。家づくりを考える人たちにアドバイスがあればお願いします。
成分が開示されれば、自己責任のもとで選ぶことができるようになります。食の分野ではいますでに、どこのスーパーに行っても有機栽培野菜のある時代になり、消費者が自分の判断で食材を選択している時代だと思います。住宅も同じようになるでしょう。一人ひとりの判断力が求められます。
2020年には建築資材のリサイクル法案が始まる予定です。つまりあと数十年たつと、住宅のリユース、リサイクルについて考慮しなければならなくなるということです。つくるだけでは終わりません。いまは解体費用としての施主負担は坪3万~4万。40坪だと160万程度ですが、この法案がスタートすると、それが倍になるだろうと言われています。
設計側、施工側、そして私たちは、プロとしてきちんとした情報を伝えていきます。それに対して家を建てる人には、ひとりの生活者としてどうするべきなのか?と考えてほしいと思います。
それに対して、建築家や工務店の皆さんはどのように家づくりに取り組むべきだとお考えですか?
人間に興味を持ちながら家をつくってほしいと思います。
自分はなんのために設計をするのか、という問いに対しての解は、施主という人間に興味を持ち、その人がいるからその家をつくるという答えであってほしいと思います。赤ん坊がいたら、その赤ん坊の五感を育てる家をつくりたいとか。
どんな人が住むのかを考えることなく、大量生産で効率よく儲けるための家づくりというのは、今の時代にはもう無理があると思います。つまりハウスメーカーのように住宅を商品化することに無理があると思うのです。一人ひとりの住まい方も多様化していますから。
大量生産が良しとされた時代もあったと思います。戦後は木材もない、大工もいない、建築家もいない。だから、そういう生産方法が生まれたのでしょうけど、そのときに必要だったとしてもそれが永久ということはない。
では今後は、日本の家づくりはどのような方向性に向かうと思いますか?
地域で家をつくる時代になればいいと考えています。建築家も必ずしも東京に集まるのではなく、地域に住む建築家が増えるといいですね。デザインもわかり、設計監理能力があり、もちろん、耐震についての構造設計の知識もあるのが建築家です。それをいかして工務店と協力して、地域で家がつくられる時代になればいい。工務店も団塊の世代から2代目に引き継がれ、20代後半から30代前半の若い世代が主力になって、センスもあり新しいものにも敏感な工務店になっていくと思います。陶器や染色など、地域のものづくり文化とコラボすれば、地域の生活文化も再生されていくでしょうし、地方から新しいものが生まれてくると思います。
昔は日本国内の住宅を見ると、屋根や外壁などが、風土や気候や文化によって地域で異なりましたよね。地域のもつ制約のなかで生まれた家づくりの文化があったはずです。制約がないことももちろん善ですが、限界のなかから新しいものが生まれることもある。今後はCO2の削減とかエコを目指す過程での制約は増えてくるでしょう。環境問題を議論する時代は終わって、実際にどう行動するかが問われる時代になってきていますから。いままでは世界中から材料集められたかもしれない。これからはそうはいかない。そうなるときっと建築も変わっていくでしょう。その環境からの制約の中から、クリエイティブな設計や家が生まれてくるといいですね。
チルチンびととは?

チルチンびと 2008年 7月 49号 風の道のある家
出版社 風土社(2008/07) 980円
1997年、吉田桂二氏(連合設計社)、田中敏溥氏、泉幸甫氏、大野正博氏を雑誌顧問に迎え創刊。建築家の建てた木造住宅作品を例にあげて、家づくりのノウハウを紹介する。隔月刊。「インターネットが普及し、情報はそちらから探すことができます。だからカタログ誌はいらない。施主の想像力を助けてくれるような知識やセンス、物事を見る角度を紹介したいと思います」(山下氏)。
最新号(49号)の特集は、初夏ならではの企画「風の道のある家」。代表5作品を紹介する。また、毎号の「ナナムイびとの暮らし」と題するコーナーでは、プロダクトや子育てなどの切り口で家を取り巻く周辺情報を提供している。

山下武秀(やました たけひで)氏
1955年生まれ。建築資料研究社・出版部での「住宅建築」の企画・営業を経て、「コンフォルト」の創刊を企画。その後1995年に風土社を設立。「チルチンびと」の編集長をつとめる傍らで、家づくり関連の書籍「建築に使われる化学物質事典」なども同社から出版する。
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